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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)1596号 判決 1960年9月27日

控訴人 岩浪みつ 外四名

被控訴人 佐久間兼吉 外二名

主文

原判決を取り消す。

被控訴人代田は控訴人ら(持分は控訴人岩浪みつは三分の一、その余の控訴人らは各六分の一)に対し別紙目録記載の土地につき所有権移転登記手続をせよ。

被控訴人らに対する関係において別紙目録記載の土地が控訴人らの共有(持分は控訴人岩浪みつは三分の一、その余の控訴人らは各六分の一)に属することを確認する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、右所有権移転登記請求の容れられない場合には予備的請求として「被控訴人らに対する関係において別紙目録記載の土地の上に存する立木、立毛が控訴人らの所有に属することを確認する。被控訴人佐久間は控訴人らに対し金十万円およびこれに対する昭和三十一年七月二日から支払済みで年五分の割合による金員の支払をせよ。」との判決を求め、以上孰れの請求も容れられない場合は第二予備的請求として「被控訴人佐久間は控訴人らに対し金四十五万円およびこれに対する昭和三十一年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。」との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、認否、援用は左に記載するほかは原判決事実摘示と同一であるからそれをここに引用する。

控訴代理人は、

(一)  控訴人らの先代岩浪栄吉は、大正二年三月十日頃別紙目録記載の土地(以下本件土地という)二筆を含む七筆の山林を佐久間米吉から代金千三百五十円で買い受け、その代金は支払済であり、爾来その使用収益、管理、立木伐採、植林等をしてきたのであつて、被控訴人佐久間や同庄司は何もしていなかつたものである。

(二)  控訴人らの先代岩浪栄吉は本件土地は自己名義に登記されているものと信じており、なんら問題は起らなかつたが、同人が昭和三十年九月六日死亡し、控訴人らが相続によりその所有権を取得した後に至り、被控訴人佐久間側から登記名義は当方にあるから涙金をくれと交渉にきたので調査したところ、本件土地が未登記であつたのを奇貨として、被控訴人佐久間および同庄司の両名が昭和三十年八月一日ほしいままに自己の名義に保存登記をした上、昭和三十一年三月十七日被控訴人代田に対し所有権移転登記をしたことが判明した。けれども所有権のない者がほしいままに自己名義に保存登記をしても当該不動産の所有権を取得するいわれがないから、被控訴人佐久間および同庄司は本件土地の所有者ではない。従つて被控訴人佐久間からその所有権を譲り受けたと称しその移転登記をした被控訴人代田も所有権を取得すべき理由はない。また被控訴人らの主張によつても、本件土地は被控訴人佐久間、同庄司両名と訴外真藤けいが共同相続したものである。しかるに本件土地につき昭和三十年八月一日千葉地方法務局南三原出張所受附第五三八号を以てなされた保存登記は被控訴人佐久間および同庄司両名のみでなされている。かように共同相続人の一名を脱落してなされた登記に無効であるか、少くとも第三者に対抗できないものと解すべきである。従つてその登記を基礎としてなされた被控訴人佐久間から同代田に対する所有権移転登記もまた無効であるから、被控訴人代田は真実の所有者である控訴人らに対し所有権移転登記をなすべき義務があるものである。

(三)  被控訴人佐久間と同代田間の本件土地の売買は、以下に記すような事情からみて、仮装であり、通謀虚偽の意思表示である。即ち

(1)  被控訴人佐久間は、本件土地が控訴人らの所有に属することを認めていた。即ち同被控訴人は、前記のように昭和三十年八月一日本件土地を自己および被控訴人庄司の名義で保存登記をしたにかかわらず昭和三十一年二月中旬から下旬にかけて控訴人らに対し本件土地の登記名義が被控訴人佐久間になつているから名義料として涙金を出してくれと交渉に来ており、その交渉中に被控訴人代田に対し売買による所有権移転登記をしたものである。

(2)  被控訴人代田も本件土地が控訴人らの所有に属することを熟知していた。けだし、本件係争の山林は人家に近く、植林した大きな立木が相当広範囲にわたり生立している。人口移動の少ない農村において、かような山林が何人の所有に属するかは周知の事実であるから、近隣の居住者に質問すればその所有者が誰であるかは即座に判明する。従つてこれを買い受けようとする場合には、あえて登記簿を調査するまでもなく、現地に臨んで調査するのが普通である。被控訴人代田が本件土地を買い受けるに際つても、必ずや現地について所有者を調査しているにちがいないから、その真実の所有者は登記簿の記載と異り、控訴人らであることを知つた筈である。

(3)  被控訴人代田は法律によく通じ、山林その他の土地のブローカー等をしており、取引に明るい人物である。

(4)  被控訴人らの間における本件土地の売買価額は金十万円であるというが本件土地は右取引当時は勿論現在においても金四十五万円以上の価値があるから、右取引値段は常識上考えられないほど低廉である。

(5)  相当高額な取引であるにかかわらず、売買契約証書もなければ、代金支払の領収証もない。また代金支払の日時も不明である。不動産取引においては、移転登記手続完了と同時に代金全額の授受を終えるのが通例であるが、控訴人佐久間と同代田との間の売買においては登記手続を完了しても代金全額が支払われていないことが確実である。またその後いつ支払われたかは明白でない。売買代金十万円の内金五万円の支払があつたというがそれさえ明らかではない。

(6)  被控訴人佐久間と同代田との間柄は、本件土地を右のように安い価額で売買するほど親しい関係ではない。被控訴人代田は満州からの引揚者で昭和二十六年に千葉県安房郡丸山町に来住した者であつて、同町内とはいえ被控訴人佐久間の住居とは数里離れており、両者は特別に親しい交際をしているわけではない。

以上各般の事実を総合すると、被控訴人佐久間と同代田との間における本件土地の売買は、控訴人らの権利主張を妨害するため、被控訴人代田の法律知識によつてなされた仮装のものであり、通謀虚偽の意思表示であるから無効である。

(四)  仮に、前記の主張が理由がないとしても、被控訴人代田は民法第百七十七条所定の第三者に該当しないから、控訴人らは登記がなくても、同被控訴人に対し本件土地の所有権を主張しうるものである。即ち被控訴人代田は、前記のように本件土地が控訴人らの所有に属することを熟知しながら、その登記のないのを奇貨として、これを被控訴人佐久間から譲り受けたと称し、自己の名義に所有権移転登記を受け、因つて控訴人らが登記することを妨害したものであるから、控訴人らの登記の欠缺を主張できないことは不動産登記法第四条、第五条、民法第一条の規定の趣旨に照らして明らかである。

(五)  控訴人らが原審で主張した取得時効は、民法第百六十二条第一項所定のそれを主張するものである。

(六)  仮に本件土地に対する控訴人らの所有権が認められないとしても、右土地の上に生立する立木立毛は控訴人らもしくはその先代である岩浪栄吉が植林管理してきたもので、現在控訴人らの所有に属するから、予備的に被控訴人らに対しその所有権の確認を求め、かつ被控訴人佐久間に対し同被控訴人が本件土地につき所有権保存登記をしこれを被控訴人代田に売渡しその登記をすることにより控訴人等をして本件土地の所有権を喪失せしめたことの損害賠償として昭和三十一年三月十七日当時におけるその底地(裸山)の価額に相当する金十万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降年五分の損害金の支払を求める。

(七)  被控訴人佐久間に対する金四十五万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降年五分の損害金の請求(第二予備的請求)は、同被控訴人の右不法行為に因る損害賠償として地上の立木立毛を含む本件土地の昭和三十一年三月十七日における価額を標準として算定したものであり、その価額は現在も金四十五万円以上である。

(八)  被控訴人らの後記(二)の主張に対し、佐久間米吉の死亡したのは大正二年三月十三日から同月十五日までの間であつて、同月十一日ではない。同人の死亡の日時を除き、被控訴人らの相続関係の事実を認める。但し真藤けいが本件土地の持分を放棄したという事実を否認する。

(九)  本件訴状送達の翌日は昭和三十一年七月二日である。

(十)  原判決三枚目表二行目に「原告」とあるのを「被告」と訂正する。

と述べ、

被控訴人らにおいて、

(一)  控訴人らの主張事実中、本件土地がもと佐久間米吉の所有であつたこと、岩浪栄吉と控訴人らとの身分関係、佐久間米吉と被控訴人佐久間および同庄司との身分関係、および被控訴人庄司が本件土地の持分を放棄したことは認めるが、岩浪栄吉が本件土地を占有していた事実および被控訴人佐久間と同代田間の売買契約が仮装であり、通謀虚偽の意思表示であるということならびに本件土地の価額の点を否認する。本件土地の裸山としての価額は金五万円である。

(二)  佐久間米吉が死亡したのは大正二年三月十一日である。同人の死亡により、長男佐久間富久が家督相続をしたが、同人も昭和二十年四月一日死亡した。同人には法定の家督相続人がなく、またその選定もなされなかつたので、新民法の規定により姉の佐久間いそ、妹の真藤けいおよび弟の被控訴人庄司良爾の三名が共同相続をしたが、真藤けいは本件土地の持分を放棄した。その後佐久間いそは昭和二十六年十二月死亡し、養子である被控訴人佐久間兼吉がその相続をしたので、本件土地は結局被控訴人佐久間、同庄司両名の共有に帰したのである。但し真藤けいが持分を放棄した日時は不明である。

と述べ、

立証として、

(一)  控訴代理人は、甲第六号証の七、同第三十一号証の一、二同第三十二ないし第四十号証、同第四十一、第四十二号証の各一、二同第四十三ないし同第五十八号証、同第五十九号証の一ないし十、同第六十、第六十一号証、同第六十二号証の一ないし九、同第六十三ないし第六十五号証を提出し、(同第六十五号証は写を以て提出す)当審証人青木恵司、同日野たま、同日野義隆、同御子神静雄、同薦岡虎吉、同川名小一、同岩浪茂、同庄司六郎、同川又清、同佐久間義一の証言、ならびに当審における被控訴人佐久間兼吉、同庄司良爾の各本人尋問の結果を援用し、乙第四号証の一は真藤光夫の印影は認めるがその余の部分の成立は不知、同号証の二および同第五号証の成立を認め、

(二)  被控訴人らは、乙第四号証の一、二、同第五号証を提出し当審証人佐久間義一、同北見一也の各証言を援用し、甲第六号証の七、同第三十一ないし同第五十四号証(但し同第三十一、第四十一、第四十二号証は各一、二)の成立を認め、同第五十五号証の成立は不知と述べ、同第五十六ないし同第六十号証(同第五十九号証は一ないし十)の成立を認め、同第六十一号証および同第六十二号証の一ないし九の成立は不知と述べ、同第六十三および同第六十四号証の成立を認め、同第六十五号証は原本の存在ならびに成立を認めた。

理由

(一)  別紙目録記載の土地(以下本件土地という)がもと佐久間米吉の所有であつたこと、同人が大正二年三月中(何日であるかについて争がある)死亡し、長男富久がその家督相続をしたこと、右富久も昭和二十年四月一日死亡したが、法定の家督相続人がなく、かつ家督相続人の選定もしなかつたので、新民法の実施により、姉の佐久間いそ、妹の真藤けいおよび弟の被控訴人庄司良爾の三名がその遺産を共同相続したこと佐久間いそは昭和二十六年十二月十九日死亡し養子である被控訴人佐久間兼吉がその相続をしたことならびに控訴人岩浪みつの夫であり、他の控訴人らの父であつた岩浪栄吉が昭和三十年九月六日死亡し控訴人らが共同してその相続をしたことは当事者間に争いがない。

(二)  控訴人らは、「本件土地は大正二年三月十日頃岩浪栄吉が佐久間米吉からこれを買い受けたものである。」と主張するから審究する。成立に争いのない甲第二号証の一、二第二十三ないし第二十七号証、乙第一、二号証、原審証人川名徳太郎(第一、二回)、御子神静雄、川名寿一(第一回)、青木不二男の各証言および原審における控訴人岩浪みつ(第一回)岩浪三千三各本人尋問の結果を綜合するときは、佐久間米吉の晩年には家運傾き負債も嵩んで財産整理の必要に迫られており、同人の死亡当時その家督相続人である長男富久は米国に在住していて帰国する様子もなかつたので、米吉の養子であつた佐久間角治(米吉の長女いその夫)や親戚の佐久間安治らが相談して佐久間米吉の財産を処分して負債の整理をしようと図り、大正二年三月十二、三日頃右米吉の財産のうち本件土地を田および原野と共に前記岩浪栄吉に売渡した事実を認めることができる。然るに成立に争いのない甲第二号証の一、二乙第三号証および原審証人川名徳太郎の第二回証言によれば、右売買の行われた時佐久間米吉は既に死亡していた疑があり、若し米吉が既に死亡していたとすれば、右売買の売主が米吉の名においてなされたにしても或は角治等の名においてなされたにしても、その売買は無権利者のなした処分として無効たるを免れない。原審証人佐久間誠当審証人北見一也の各証言および原審における控訴人岩浪みつ本人の第二回供述中右認定に反する部分は措信し難く、その他控訴人等被控訴人等の全立証によつても前認定を左右するに足りない。結局岩浪栄吉が佐久間米吉から売買に因つて本件土地の所有権を取得したという控訴人らの主張はその立証がないことに帰著する。

(三)  よつて、控訴人らの時効取得の主張について検討するに、係争山林の一部の写真であること争いない甲第六号証の七、被控訴人佐久間同代田との関係において係争山林の写真であること争いなく被控訴人庄司に対する関係においても原審証人渡辺角司当審証人青木恵司の各証言により係争山林の写真であることを認め得る甲第六号証の四、五当審証人佐久間義一の証言により真正に成立したことを認め得る甲第六十一号証、当審証人日野たまの証言によつて真正に成立したものと認める甲第七号証の一ないし三に、原審証人川名徳太郎(第一、二回)、同月原竹次郎、同渡辺角司、同原田嘉市、同川名寿一(第一、二回)、同高梨勇治、同青木不二男、原審ならびに当審証人御子神静雄、同薦岡虎吉、同青木恵司、当審証人佐久間義一、同庄司六郎、同川又清、同日野たま、同日野義隆、同川名小一の各証言、原審における控訴人岩浪みつ(第一、二回)同岩浪三千三各本人尋問の結果を総合すると岩浪栄吉は前記の通り大正二年三月十二、三日頃本件土地を買受けた(その売買契約が法律上有効であり岩浪栄吉がこれにより本件土地の所有権を取得したと認定するには証明不十分であることはさきに説明した通りである。)後死亡するに至るまで(同人が昭和三十年九月六日死亡したことは前記の通りである。)、本件土地である山林を管理収益していたこと、詳言すれば、下草を刈る等山掃除をし、立木を伐採して自己の用途に使用し、雑木を売つて本件土地内で炭焼をなさしめ或は松、杉等の立木を売却し又植林もしたことを認め得るから、右期間本件土地は岩浪栄吉の占有に属していたものと認めるのが相当である。被控訴人佐久間同庄司は、被控訴人佐久間家において本件土地を占有し納税していたと主張するけれども、被控訴人等の提出援用にかかる凡ての証拠を以てしても未だ前記認定を覆し右被控訴人等の主張事実を認めるに足りない。従つて右岩浪栄吉は所有の意思を以て平穏且つ公然に本件土地を占有していたものと推定すべく、大正二年三月十二、三日頃から二十年を経過した昭和八年三月十二、三日頃取得時効の完成により本件土地の所有権を取得したものというべきである。

そして岩浪栄吉の死亡により控訴人等がその相続をしたことは前記の通りである。

(四)  そこで、被控訴人らに対し、右所有権取得を対抗できるかどうかについて考えてみると、被控訴人庄司は、佐久間いそ真藤けいと共に前記のように佐久間米吉の家督相続人たる佐久間富久を相続し被控訴人佐久間は、右いそを相続したものであり、被控訴人佐久間同庄司は結局佐久間富久の包括承継人であるから、控訴人らは被控訴人佐久間および同庄司の両名に対しては登記がなくても本件土地の所有権取得を対抗しうるものである。

つぎに、被控訴人代田に対する関係をみるに、昭和三十年八月一日被控訴人佐久間同庄司が本件土地につき同被控訴人等のために所有権保存登記をし、同日被控訴人庄司の共有持分放棄により被控訴人佐久間のため持分全部の取得登記がなされたことは同被控訴人等の認める所であり、成立に争いのない甲第一号証の一、二によれば被控訴人代田に対する関係においても右事実を認めるに足る。被控訴人代田が昭和三十一年三月十七日被控訴人佐久間から本件土地につき、売買に因る所有権移転登記をしたことは当事者間に争いがない。

控訴人らは被控訴人佐久間と同代田との間の右売買契約は、当事者が相通じてなした虚偽の意思表示であるから無効であると主張するから審究するに、被控訴人佐久間は当事者尋問を受け、原審において原告等(控訴人等)代理人の問に対して、「代金は十万円であつて、はじめに三万円を受取り、後に二万円を受取つた」と述べ(記録第二八五丁裏)、被告(被控訴人)代田の問に対しては、「はじめ二万円受取り、三万円は下旬(昭和三十一年三月下旬)でよい。あとは同年九月でよいと決めた。」と述べ(記録第二八七丁裏)、当審においては、控訴代理人の問に対して「三万円を訴状が来た前日(昭和三十一年六月三十日)に受取り、二万円は仮処分で差押えられる前頃に受取つた。」と述べ(記録第六一八丁裏)被控訴人代田の問に対しては「本件山林を代田の名義に登記して来た晩(昭和三十一年三月十七日)および仮処分される前に代田から金を受取つたことは知つております。」と答えている(記録第六二〇丁表)。又残金五万円はまだ(昭和三十四年九月五日当時)受取つていないとも述べている(記録第六二一丁表)。以上当事者尋問における被控訴人佐久間の供述が前後変転し或は矛盾撞著あることから、当裁判所は、被控訴人佐久間と被控訴人代田との間には全然売買代金の授受がなかつたものと認定する。乃ち所有権移転登記はありながら代金の授受が全然ないこと、当審における被控訴人佐久間兼吉本人尋問の結果により認め得る、昭和三十年八月一日被控訴人佐久間が被控訴人代田と共に登記所に赴いて被控訴人佐久間同庄司のために本件土地につき所有権保存登記等をしたこと及び弁論の全趣旨殊に被控訴人代田[日見]理の弁論の趣旨を綜合するときは、被控訴人佐久間と同代田との間の本件土地の売買契約は当事者が相通じてなした仮装のものであり、虚偽の意思表示であると認めるに足る。即ち右売買は無効であり、被控訴人代田は本件土地の所有権を取得したのではないから、登記の欠缺を主張する正当の理由がなく、控訴人等は登記がなくともその所有権を以て同被控訴人に対抗することができる。

(五)  そうすると、被控訴人代田は登記簿上の記載を実体上の権利関係と符合せしめるため控訴人ら(持分は控訴人岩浪みつは三分の一、その余の控訴人らは各六分の一)に対し本件土地の所有権移転登記をなすべき義務がある。本件土地の所有権保存登記には共同相続人の一人である真藤けいが関与していないけれども、右登記は保存行為と認むべきであるから、真藤けいがその持分を放棄したと否とに論なく、他の共同相続人である被控訴人佐久間同庄司のなした右登記は登記として有効である。また被控訴人らは控訴人らの本件土地所有権を争つているのであるから控訴人らは被控訴人らに対し、本件土地の共有権(持分の割合は前記の通りである)確認を求める利益を有するものというべきである。

よつて、控訴人らの本訴請求は正当であるからこれを認容すべく、右と趣旨を異にし、控訴人らの請求を棄却した原判決は失当であるからこれを取消し、民事訴訟法第九十六条、第八十九条、第九十三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 奥田嘉治 岸上康夫 下関忠義)

目録

千葉県安房郡丸山町宮下元御子神字吉畑二百十五番の五

一、山林 三反一畝五歩

同県同郡町同字二百十五番の六

一、山林 二反三歩

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